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*とあるパーティのCMYK団子。(CMYKとは色の表現手法の1つ。主に印刷で使われる。)

某アートディレクターの方の東京オリンピックのエンブレム盗作騒ぎから
トートバックにまで騒ぎが広がっているのを見て、
同業の端くれとして思うところをブログに残そうと思います。

(結果、長くなってしまいました。。苦笑)

 

♦ 前提として、役割の違い

そもそも業界の前提として、
アートディレクターは必ずしも自ら制作するものではありません。

その役目はプロジェクト全体のコンセプトから
適切な表現コンセプトの方向性を決定し、舵取りをすることです。

現場で船を漕ぐの(表現自体の制作)は
多くはデザイナーの役目になります。

理由は単純で一人でできる分量に限界があるから。

広告キャンペーン系になると一人で制作することは物理的にできません。
連日連夜徹夜で作業しても終わらない分量になるからです。
特にプロジェクトが大きくなればなるほどそうならざるを得ません。

1プロジェクトにアートディレクター1人に対して
デザイナーが1〜多くて5・6名くらいが現実的なチーム人数なのではないでしょうか。

デザイナー 3役職の違い解説 <クリエイティブディレクター・アートディレクター・デザイナー>

 

なので「アートディレクターが作っていないのはおかしい」という意見は
自動車会社の社長に「社長が工場で組み立てていないなんておかしい」というようなものです。

ただし船長(アートディレクター)である以上、
船員(デザイナー)の監督責任は発生します。

いかに大変でも。。

 

♦ 構造が同じだと確かに視覚的に似てしまうこともある

見た目が少しでも似ていたらパクリと騒いでいるだけに見える部分もありますが、
人間が美しいと感じる、もしくは感じやすい構造には絶対ではないにせよ法則があります。

単純な構成だけでいうと、
正円や正多角形、それに伴う角度やサイズ、
色の整合性(赤は温かく感じ青は冷たく感じる、など)。

シンプルな構成では角度が同じになるのは
まあ、あり得るだろうなと。

360度の6等分割は60度の角度になるのは当たり前で、
62度や58度では構成がまとまりませんし、美しく感じられません。

それが同じだからといって似ているといわないのではないでしょうか。

同じ定義を使っただけで似ているといわれたら困る科学者は多いはず。(笑)

同じ単語を使っても同じ文章とは限らないのに、
ビジュアル(視覚情報)になると色合いが似ただけでも
同じと騒がれる傾向が見受けられたので
目利き力のない人の方が騒がしいのは悩ましい限りです。。。

 

特に通常の仕事でも、個人的な好き嫌いで語っているだけでは収まらないし決まりません。

ビジュアル(視覚情報)はコミュニケーションスピードが速い分、
好き嫌いという意味でもパッと見で判断されやすいです。

実は言葉と同じように思考の階層があるのですが、
その上位の階層で判断しないと求めているものからブレてしまいます。

好き嫌いの感情と混ぜてしまう傾向があるので、
分けないと冷静な判断が難しくなります。

いや、もしかしたら感情と絡むからこそ冷静な判断が難しいのかも。。。

 

♦ 「既存のアイデアの新しい組み合わせ」と「コピペ」の判断

マネや似ていることがいいと言っているのでは決してありませんが、
「パクリ」が「少しでも似ていることは全て不可」とするなら、
何も生み出せなくなるのはお分かりになっていただけるのではないでしょうか。

ただし、引用の線引きに対しての曖昧さ・難しさも感じています。

特に若手デザイナーは修行中のため様々なことがわかっていない分、
認識が甘い可能性があります。
(この辺りは自戒もかなり込めて。)

コピーライターの小霜和也氏のブログ『「元ネタ」と「コピペ」の線引き』にもありましたが、
「大丈夫だろう」が大丈夫じゃなくないことが多くあるけれども、
それでも表現を自分の中だけで全て作り出すこと(アウトプット)は不可能ですから、
やはり今まで見てきたもの(インプット)の影響は拭いきれず、
あるいはヒントをもらうこともないワケではありません。

 

「元ネタ」からのアイデアの昇華のレベルが
「既存のアイデアの新しい組み合わせ」にまで至っているのか、
「コピペ」レベルでしかないのか、
その判断も含めて終わらない修行をしているようです。

それが自分だけでなく、その思考構造を部下にちゃんと伝えて、
ちゃんとできるようにしている上司は世界にどれほど存在しているでしょうか。

難しさはそこにもあります。言うは易しですから。

 

※話が複雑になるので
広告代理店でのコンプライアンスチェック等はここでは割愛します。

 

♦ 最後に、他者を吊るし上げて全体としていいことあるのかな

同業ゆえに騒ぎが気になっているというのもありますが、
多くの理解ある人は黙っているとわかりつつも
この傾向は日本文化全体ではマイナスにしか作用しないだろうに
どうしてこうもターゲットを定めたイジメっぽくなってしまうのか、
理解できずにいます。

佐々木俊尚さんsasakitoshinaoの「くだらない的外れな非難をする人たちに「俺たちの声がやっぱり正しかったんだ!」という成功体験を与えてしまうのは、社会として健全ではありません。無視する力を持とうよ。」

変な大声で日本のデザインがもっとつまらなくなったら
いろんなものがもっともっとつまらなくなってしまうだろうに。。。

 

で、話題の契機となった東京オリンピックのエンブレムですが、
デザイナーに賞金100万円なんですよね。
ロゴに伴う権利もオリンピック組織委員会に譲渡です。

ロゴに100万は高いですか?
でも国際事業のオリンピックです。

コンペの制作期間も、本業を同時に進めつつ
動画やエンブレムの全体構成を考えさせて作らせて2ヶ月弱という短さ。
コンペにかかる制作費はもちろん持ち出し。

青天井で払うべきとは考えていませんが、
オリンピックロゴに対してこれではデザイナー個人の気概のみが頼りの価格です。
(その後の大騒ぎを思うとこの価格では。。。)

ロンドンオリンピックはロゴ制作費に40万ポンド(今のレートでおよそ8,000万)で、
お金じゃないとはいえ、
お金に換算してみるとわかりやすい部分を感じてみたりしております。。
(さすがにロンドンでも高いとの批判が出たようですが。北京、リオはわからず。)

同じ先進国としてデザインに対する意識の差をここからもみてとれます。

 

 

今日も来てくれてありがとうございます^^

それではまた!

 

*** 今日の雑談 ***

滋養にニンニクを毎晩摂取中。今会うとニンニク臭が芳しいかも。(笑)